2024年7月17日水曜日

【館長ブログ】馬場 洋展 子どもたちの感想に驚く

 45日~630日の3か月間は二紀会準会員の馬場洋先生の展覧会を開催しました。先生の作品は14年程前に初めて拝見し、それ以来ずっと作品を見てきました。

ある日、先生からお手紙がきました。自らの作品を「ある意味独り言のようだ」「モチーフや構図が難解である」という内容でした。展覧会をご覧になられたお客様の中にも、「画力は素晴らしいが難しいですね」というお話もありました。しかし、作家の心に映る風景を作品にするところに、先生の魅力があるのではないかと思います。

 

会期中、美術館のお隣が小学校ということで、2年生以上の児童を対象に鑑賞授業を行い、478名の子どもが来館しました。その前に、鑑賞授業をより充実させるために、アートコミュニケータの指導で、小学校の先生を対象とした研修会を実施しました。

 研修の結果、子どもたちの素直な感想がもっと引き出せるようになり、その感想には何度も驚かされました。二紀会に出品した「揺れる蒼い夢」という作品を見て、小学5年生の男の子から「過去と現代の時間の間(はざま)を感じました」という感想が。また、作品からストーリーを創る子どももいました。もしかしたら、馬場先生の内心を描いた作品には、子どもたちの想像の世界を拡げる力があったのかもしれません。子どものときの作品との出会いは、のちの人生に何か影響を与えるのではないかと思います。

 

「揺れる蒼い夢」2009年

中学生を対象としたギャラリートークでも、たくさんの質問や先生を囲んでのお話しをしている光景が見られ、とても嬉しく感じました。

 

馬場先生のお人柄と、一筆一筆が人生の痕跡であると考えひたすら画面に向き合う姿勢は多くの方々に感銘を与えました。週末ごとに来館され、絵画や絵に取り組む考えについていろいろお話できたことはこの上ない時間となりました。

馬場先生の作品はこれからも見つづけ、応援していきたいと思います。

「微睡みの幻-Ⅰ-」2014年

2024年4月20日土曜日

【館長ブログ】山下大五郎展 子どもたちの心に残る展覧会であればと願います

 山下大五郎展 一路~自然の中の生命を求めて~は、2024年1月11日~3月30日までの3か月間開催しました。

山下大五郎展は2010年に北アルプス展望美術館にて開催されて以来、14年ぶりの展覧会となりました。ご家族の所蔵している70点余りの作品と、北アルプス展望美術館所蔵の5点の作品をお借りし、山下先生の画家人生をたどる4つの時代に分けて、2期にわたり展示を行いました。先生の描く安曇野の風景に魅了された多くのファンがご来館されましたが、安曇野以前の作品を初めてご覧になる方も多く、戦前・戦後の作品には驚きの声があがりました。

「帰ってきた人」1956年

本物の作品を子どもの頃から鑑賞することの大切さは、美術館開設当初より感じておりましたので、本展覧会ではアートコミュニケータの協力を得て、おおぐろの森小学校、西初石中学校の児童生徒706名の鑑賞授業を実施しました。子どもたちは素直な感想を自由に話したり、伝え合ったりしていました。美しい日本の原風景が、子どもたちの心に残ってくれたらと願います。



また毎週末、山下先生のご長男の圭一様がご来館され、生前の山下先生のお話しをお伺いできたのは貴重な時間となりました。圭一さんはご来館されたお客様とも親しくお話をされ、作品の魅力をより深く感じていただけたと思います。


この展覧会では、出会いがいろいろありました。

まず、山下大五郎展が当館で開催できたいきさつです。山下先生が銀行の美術サークルの講師として指導していたときの生徒さんが偶然ご来館され、そのお話の中で圭一さんをご紹介いただけることになり、開催の運びとなりました。

次に、14年前の展覧会の図録を編集された小林明様がご来館されたことです。図録は山下先生の人生を知る貴重な資料で、詳細な記録に驚かされました。こちらの図録がなければ展覧会の副題や展示方針が思いつかなかったことでしょう。小林様とお話しできたことに大変感激しました。

最後に、先生が愛した安曇野の地である長野県の池田町の広報誌や、池田町観光協会のパンフレット等をお配りし、先生が絵画に残した田植えの季節にぜひ北アルプス展望美術館を訪ねていただけるよう、たくさんのお客様と会話が弾みました。

本展覧会が山下大五郎という存在を、再び多くの方々に知らせる機会となったのであれば幸いです。

「安曇野田植え」1990年

2024年1月24日水曜日

【館長ブログ】木原和敏展 各地からファンが集う

 木原和敏先生に初めてお会いしたのが2006年でした。その後、個展や白日会展、日展で作品を拝見したり、先生のお話しを伺ったりする機会がありました。私には美術館を開設した当初から先生の展覧会を開催したいという考えがあり、7年目にしてようやく開催の運びとなりました。

人物画のみの展覧会は当館にとって初めての試みでした。風景画とは異なり、お客様が作品から受ける印象がどうなのかと気になる点がありましたが、木原先生が描く女性の美しさや優しさ、何気ない仕草が、観る人に穏やかな心持ちをもたらしてくれた印象を持ちました。

絵を描いている方たちからは、木原先生の筆致と細部の技巧に驚きの声があがり、何度も長い時間をかけて鑑賞していらっしゃる様子も見られました。

ちょうど日展の時期と重なったこともあり、全国に巡回するまでの間、出品作品「空模様」を当館で展示することができました。日展の会場では見られなかった方にも鑑賞していただくことができ、大変嬉しく思いました。

「空模様」2023年

木原先生のファンの方が、遠くは鹿児島など全国各地からご来館されました。そうした来館者に対し、とても親切に親しくお話しされるのを拝見して、先生の魅力は作品に留まらずお人柄にもあるのではと感じました。

木原先生には会期中、ギャラリートークやクロッキー・水彩画の実技、また美術クラブの生徒さん向けの講義など、たくさんのご協力をいただきました。生徒の皆さんが先生を取り囲み熱心にお話をする光景はとても素晴らしく、子どもたちの良い思い出になってくれればと思いました。

木原和敏展が、新たな出会いと新たな発見の場になったのであれば幸いです。

「余韻」2023年